【映画批評 過去記事から】
ヒアアフター原題:HEREAFTER
2010年/アメリカ/シネマスコープサイズ/129分
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ピーター・モーガン
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス
   ゲイリー・D・ローチ
音楽:クリント・イーストウッド
出演:マット・デイモン
   ブライス・ダラス・ハワード
   セシル・ドゥ・フランス
   フランキー・マクラレン
   ジョージ・マクラレン


 かつて、死者と会話出来る霊能力者として活動していたジ
ョージ、臨死体験を周囲から理解されずに孤立するニュース
キャスターのマリー、双子の兄の死を受け止め切れず、孤独
感に苛まれる少年・マーカス。まったく違った人生を生きて
いた彼らだったが、それぞれの「答え」を求める過程の中で、
互いの運命が導かれるように次第に触れ合っていく。

 誰にでも等しく訪れる「死」という現実。死とは一体何な
のか? 死んだら人はどうなってしまうのか?そして生き残
った者はどうやってその現実を乗り越えていけばいいのか。
 「死」に直面することで、その命題に向き合うことになっ
た3人の、生と死を巡る小さな奇跡の物語。

■映画は冒頭、穏やかな白昼のリゾート・ビーチに突如遅い
かかる大津波の猛威を、圧倒的な迫力で描き出す。VFXを
駆使して克明に描写される非現実的光景、抗い切れない災害
の恐怖。人は「死」といつでも隣り合わせなのだ、という痛
烈なるメッセージ。
 「アメリカ映画の歴史を再現する映画監督」であるイース
トウッドは、数多存在する「ディザスター(災害パニック)
映画」というジャンルに対して、「俺ならVFXをこう使う
よ。」と言わんばかりに、件のシーンを物語の中に違和感な
く繋ぎ込んでみせる。このインパクトある導入部で観客の心
をがっちりと掴んで、映画は静かに物語を語り始める。

■死者の声を聴く男、死を経験した女、死に遭遇する少年。
 登場人物それぞれの身の上に起こる現実と状況の変化が、
淡々と描かれていく3つのエピソード。その語り口はきわめ
て理性的で無駄がない。物語後半で3人はまさに「運命的」
な交錯をするが、それも驚くほどさりげなくナチュラルに描
かれ、必然か偶然か、といった類いの問いも終始、無効化さ
れている。
 本作品のテーマであり、特徴的キーワードである「スピリ
チュアリティ=霊性、精神性」。このジャンルの映画にはじ
めて(以前から「幽霊」的なモチーフは頻繁に使われている
が)ストレートに斬り込むイーストウッドだが、冒頭のVF
X主体の構成から一転、こちらは「霊界との交信」を効果音
とイメージショットを短く挟むだけの抑制された表現に留め
て、一切のエキセントリックな表現を画面から排除する。
(その表現方法はジョージの「能力に対するスタンス」とも
見事なまでに合致する)
 そして「霊との交信」を再三描きながらも、その「真偽」
について、映画は肯定も否定もしない。従っていかなる場面
においてもジョージの能力は何ら「特権的」に使われること
はなく、あくまで「人と人をつなぐ」ためのひとつのツール
でしかない。ただ「そこで起こったこと」のみをカメラは映
し出し、そのことを信じるか信じないかはすべて「観客」に
委ねられる。

■前述の「アメリカ映画を再生する」という意味では、本作
は実に多様な映画スタイルを横断する。
 まず、作品自体のルックスが、従来のイーストウッド的な
「地方都市の風景」ではなく、極めて現代的な都市イメージ
を持っていて、3人の主要エピソードはそれぞれ、パリ、ロ
ンドン、サンフランシスコを舞台にして描かれる。そしてそ
れぞれが「フランス映画」「イギリス映画」「アメリカ映画」
のニュアンスを醸し出している。
 さらに、今や「アメリカ映画の歴史=その重要な一部」と
いえる「自作」からも、映画的趣向・テイストが貪欲にフィ
ードバックされている点も見逃せない。マーカスのパートが
『ミスティック・リバー』を、ジョージのパートが『ミリオ
ンダラーベイビー』を、マリーのパートが『チェンジリング』
を、それぞれ(互いを補完し合いながら)「救済する」よう
な形にも見える。
 そして極めつけは、観る者の予想を超える、ハートウォー
ムな「王道の恋愛映画」としての側面。「料理教室」シーン
でのチャーミングな演出の意外性、それを飄々とこなすイー
ストウッド。その驚くほど豊かな「映画力」こそ、「スピリ
チュアル」だといえるのかもしれない。

■「死」について考えることは必然的に「生」を考えること
である。 『ヒア アフター』はその終わりのない大いなる命
題を我々に問う「心の物語」である。ジョージ自身が吐露す
るように、彼の能力自体には「大きな意味」はない。世界を
災害やテロから救うことはできないし、死者の声を聞けても、
その死を食い止められるわけでもない。「それだけ」では何
も解決しないただの「力」を、意味のあるものに変えるのは、
何かを信じようとする「人の意思」である。
 状況に翻弄され迷走しながらも「決して立ち止まらず歩き
続けていく「意思」さえあれば、人はきっと何処かに辿りつ
く。それが「運命」か「偶然」かは、極論どらちでも構わな
い。そして「歩み続けること」は、まさに「生きていく」こ
とそのものと言える。

■何年かヘヴィなテーマが続いていたイーストウッド作品は、
『グラントリノ』、それに続く『インビクタス』で、再びシ
ンプルで明朗な物語性に回帰してきた。曇天と荒涼の世界か
ら青空が眩しい世界へ。
 今回も、実質的にはヘヴィなテーマを掲げつつも、映画自
体は真摯であると同時に驚くほど軽やかで、その独自の存在
感を放つ作品の魅力に、あらためて感嘆するほかない。
 イーストウッド作品に対する、固まりかけた既成のイメー
ジを、新しい試みで自ら大胆に打破してみせる本作は、正に
イーストウッド映画の「ヒアアフター(これからの行く先)」
なのではないだろうか。

(天動説:2011/2/2 試写会にて)

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