【映画批評 過去記事から】
ばかもの■2010年/ビスタサイズ/120分
■制作プロダクション:東北新社クリエイツ
監督:金子修介
脚本:高橋美幸 原作:絲山秋子
撮影:釘宮慎治
照明:田辺浩
編集:洲崎千恵子
音楽:MOKU
出演:成宮寛貴、内田有紀、白石美帆
   池内博之、中村ゆり、浅見れいな
   岡本奈月、浅田美代子
   小林隆、古手川祐子、アイラ

 1999年、群馬県・高崎市。気ままな大学生の大須秀成は偶
然、強気で飾り気のない年上の女性・吉竹額子と出会い、そ
の魅力にのめりこんでいく。毎日を無邪気につき合う2人だ
ったが、ある日突然、額子は一方的に彼を捨ててしまう。
 秀成は虚無感から人生を踏み外し、どんどん堕ちていくが、
一方の額子にも予想だにしない過酷な人生が待っていた…。
 そして10年の時を経て再会する2人。お互いのことを忘
れたくても忘れられなかった、2人の不器用な愛の顛末。

d(>_<  )Good!!(2010.12.30)


 けっして止まることなく過去から未来へと連綿と流れてい
く「時の河」。本作の登場人物である秀成と額子の2人は、
その河のゆるやかなせせらぎの中でたまたま出会う。しかし
流れに身を任せているうちに、次第に激流に飲み込まれてい
き、もがきながらも成す術なく流されていく。
 『ばかもの』は紛れもなくピュアな恋愛映画でありながら
も、巻き込まれ型のサスペンスでもあり、絶望と混迷の中で
闘い抜く姿を描いた、おそらくもっとも現代的かつ現実的な
冒険活劇である。金子監督はこの10年の「日本の歴史」と
2人のドラマをシンクロさせて、「青春」が「人生」へと強
制的に移行していく中で、過酷な逆境を乗り越えた人間の
再生と復活を、厳しくもセンシティブに描き、あたかも「な
にもなかった」かのように語られがちな2000年代にも、
「確かなもの」が沢山あったのではないかと、さりげなく指
摘してみせる。
 
 どうやって素直に気持ちを表現していいか判らない、そん
な不器用な2人を真っ直ぐに演じるのは、成宮寛貴と内田有
紀。10年の時間経過と内面の変化を、資質としての「陽の
イメージ」を起点に360度のグラデーションで繊細に表現
する。きわどいセリフもけっして下品に聞こえないところも
好感が持てる。
 2人を見守る周囲の人々、とりわけ秀成の父役・小林隆、
額子の母役・古手川祐子の抑えた演技の確かさが印象的だが、
額子の愛犬ホシノを演じるアイラの「表情」豊かできわめて
ナチュラルな名演技も忘れ難い。

 「喪失」と「獲得」を繰り返した2人の10年は、それぞ
れがたった一人の「ひと」に支えられていた。あたかも「あ
らゆる災厄が飛び出した後にただひとつ残ったもの」のよう
に。2人が再会する倉渕の別荘のシーンに満ちている光の穏
やかさ、2人の気持ちがたゆたう清廉な空気。積み重ねてき
た月日の重みを感じさせるように、再会後のシーンは、その
ショットひとつひとつに確かな重みが感じられる。そして、
秀成が額子の腕を洗うシーンには、どんなラブシーンよりも
繊細で生々しい圧倒的な官能性があふれている。

 今や穏やかな「河」の流れに寄り添う2人が、変わらない
愛の形を探して辿り着いたその終着点に待つ奇跡。そこには
幻想的で静謐な2人だけの世界が待っている。深い安堵感が
漂うラストシーン、「あの頃」と同じようなせせらぎの中、
無邪気な笑顔を交わす2人の「ばかもの」に限りない愛おし
さを感じずにはいられない。
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